2011年10月3日月曜日

カール・デュ・プレルにおける科学技術と心霊研究


 カール・デュ・プレルについての発表要旨、および発表当日に配布したレジュメです。


 カール・デュ・プレル18391899は、世紀転換期ドイツにおいて、哲学者そして心霊現象の研究者として活躍した人物である。近年Pytlik2005Kaiser2008など、デュ・プレルの生涯と思想についての研究が進められ、多くの書籍が復刊されつつある。思想家としてのデュ・プレルの大きな特徴は、心霊研究だけでなく、文学や哲学から宇宙進化論にまで至る関心領域の広さである。
 デュ・プレルと、後の時代を代表し、今日もよく知られるシュタイナーやベサントといったオカルティストとの相違は、その自然科学的方法論に対する態度にあるといえる。後者が個人の経験を出発点とした、ある種の物語的な神秘主義的世界観を展開したのに対し、デュ・プレルの方法論は大きく異なっている。ずさんな面は大いにあったが、彼が依拠したのはあくまで実験と観察であった。人間の目だけでなく、カメラや電気的な装置をつかった、催眠や夢遊状態、そして交霊術の実験は、デュ・プレルの他、ドイツでは物理学者ツェルナーや精神医学者シュレンク=ノッツィング、そしてイギリスではマイヤーズやクルックスのような自然科学者たちによって行われてきた。実験的にオカルト現象を解明しようとした人々は、そこから何を見いだそうとしたのか。魂や精神活動の物理的な把握、あるいは霊魂の実在を確かめること、などが考えられるが、デュ・プレルにおける中心的な問題は、進化を続ける宇宙の中での人間の発展可能性という点であった。  
 デュ・プレルは、最も影響を受けた思想としてダーウィンの進化論、ショーペンハウアーおよびエドゥアルト・フォン・ハルトマンの哲学、そしてエルンスト・カップの技術の哲学を挙げている。カップの技術の哲学とは、器官投射説として知られている。すなわち人間のつくる道具は、身体の代用、延長として発生し、さらに身体を補強し発展させるものとなるという考えである。デュ・プレルにおける心霊研究への関心と、技術の哲学とは、人間の発展可能性という点において結びつく。デュ・プレルは、催眠術や動物磁気による(または宗教的奇跡としての)空中浮揚現象について言及し、カップの器官投射説を引きながら、将来における人間の飛行可能性を夢想している。
 本発表では、これまでほとんど論じられることのなかった思想家であるデュ・プレルをとりあげ、彼の哲学的・心理学的探求と宇宙進化論や技術の哲学を参照した人間の発展可能性という問題意識について、同時代の思想との関連を明らかにする。

日本独文学会秋季研究発表会2009年10月。予稿集より。
当日配布したレジュメは以下。

デュ・プレル発表レジュメ
デュ・プレルスライド

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