小学校にあがる前 4歳年下のいとこと |
日ごろ論文検索に使っているCINIIやMAGAZINEPLUSで検索すると
500円硬貨について、いくつかの雑誌記事がひっかかった。
(予想していたことだが、学術論文はまったく見つからなかった。)
夕方図書館でコピーしたのが、1984年に「朝日ジャーナル」8月31日号に掲載された、
「日常からの疑問18 シリーズ・こんなものいらない!?500円硬貨」と題された記事である。
1984年といえばロサンゼルスオリンピックのころ。私が覚えてる一番古いオリンピックだ。
500円硬貨の登場は82年の4月。ということは登場からすでに一年半も経過したあと
ということになる。執筆者は朝日ジャーナル記者の宮本貢というひと。
ちなみにこの雑誌の同じ号には「現代の若者のカリスマ」というグラフ記事で
村上龍(当時32歳)が取り上げられている。
この記事での主張を簡単にまとめると、このところ500円玉が出回るようになったが、
どうにも使いにくくてなるべく早く手放したくてしょうがない、これはけっして作者だけの
感覚ではなく、わりと世の中に広く共有されているものである、といったところ。
ではなぜ宮本は、500円玉を忌避するのだろうか。
主だった理由としては、必要ないということ、重すぎること、札のほうが管理しやすいこと
などを三和銀行のアンケート結果とともに列挙している。
この、500円玉が「重い」という印象は現在の私たちにとって違和感を覚えるところではないか。
たしかに私が初めて父から500円玉をもらったときには、なにか宝物のような、
優勝のメダルのようなものを手にしたかのような、ずっしりとしたカタマリという印象を
抱いた。それは私がまだ6歳の幼児だったからかもしれないとも思っていたのだが、
この記事を見る限りは、大人にとっても500円玉の大きさや重さはなにやら奇妙な
ものだったのだろう。
それから500円玉が必要ない、使いにくいという感覚もよくわからない。
私の場合、500円玉を使う場面といえば、たばこを買うときのことを思い出す。
いまはやめてしまったけど、喫煙者だったころには、たいていいつも500円玉を
投入していたはずだ。
なぜなら、ちょっと前までたばこは200円台後半という中途半端な額だったし、
1000円札を入れるとおつりが大量に出てきて困ったりもしたからだ。
また、たばこでなくても、ジュースやお茶などを買う際にも、500円玉ならたいていのものが買えるし、10円玉や100円玉を何種類も小銭入れに入れておかなくてもいいので便利だ。
だが、このような感覚は、500円玉を基準にした物価体系の中に生きているからこそ
成り立ちうるものだということを忘れてはならない。
記事から1984年当時の物価水準を想像することは難しいが、調べたところによると
このころのたばこ一箱の値段は200円前後。(私が見たデータではハイライトの値段が、
83年から84年にかけて、170円から200円に上がったことになっている。ということは、
いまのたばこもそうであるように、84年当時でも、200円以下の銘柄だってあったかも
しれないということだ。)
コーラやファンタなどは確か消費税導入まではどこでも100円ちょうどだった。
ということは、たばこにせよ、ジュースにせよ、100円玉を数枚用意しておけば
ことたりるわけで、なにも重たい500円玉をジャラジャラさせておく必要はないのだ。
さらに記事の中でも触れられているように、84年の11月に新紙幣(夏目漱石の
1000円札)が登場することになっていたため、500円玉に対応する自販機の導入が
遅れていたという事情も関係している。
それゆえ、記者が述べるように、ちょうどこの時期500円玉は自販機でつかえないし、
たばこやジュースを買うにはやや額面が大きすぎる、ちょっと使いづらい硬貨として
認識されていたということなのだろう。
ずいぶん長くなったのでいったんまとめておこう。
東北新幹線(1984年開通)とともに私の幼年時代の記憶として刻まれている500円玉の
印象だが、その重さやスペシャル感というのは、大人社会においては違和感や拒絶感
として受け入れられていた。そして大人たちが500円玉を手にしたときの、何となく決まり悪い
思いは、それがモノの価値が大きく変動する時代の入り口にたっていたことを意味している。
それまでの100円玉数枚を中心としていたモノの価値体系は、おそらく82年の500円玉導入、
および新札の発行、そして89年の消費税のスタートによって決定的に、500円玉を中心とする
体系へとシフトしていったと考えられよう。
そしておそらく私たちにとって、現在の物価もいまだ500円硬貨を一つの単位とする
価値の体系をそのままにとどめているといえるのではないだろうか。
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