主な研究内容について紹介します。
1.ダニエル・パウル・シュレーバーと世紀転換期の言語文化
ダニエル・パウル・シュレーバーは、法律家として務めていたが、のちに精神の病に侵され、自らをおそう世界の没落とその後の世界像を描き出しました。シュレーバーが残した唯一の図書『ある神経病者の回想録』(1903年)を読み、シュレーバーの描く独自の世界観がどのように形成されたのかを考えています。
シュレーバーについては、博士論文『ダニエル・パウル・シュレーバーにおける言語をめぐる思考』(京都大学、2012年)を加筆修正して、2014年春に『言語と狂気―シュレーバーと世紀転換期ドイツ』として水声社より刊行しました。
2.カール・デュ・プレルと世紀転換期ドイツの心霊主義 1839年にバイエルンで生まれたカール・デュ・プレル(Carl du Prel)は、現在ではほとんど忘れられてしまいましたが、当時は多くの芸術家に影響を与えた心霊主義者として知られた人物でした。(たとえば、明治期に東京大学の外国人講師として、夏目漱石等にドイツ語や哲学を講じた、ラファエル・フォン・ケーベルなどもデュ・プレルの熱心な信奉者の一人でした。)シュレーバーの『ある神経病者の回想録』にも、デュ・プレルを参照したことが明記されています。哲学の知識を背景に、デュ・プレルは、来世における魂の生存やさらなる発達の可能性、そして無意識状態の人間が発揮する能力、さらには死後の世界と宇宙の類縁性といった問題について探求し、人間の目に見えない能力の存在と宇宙における人間の位置づけを試みました。
デュ・プレルをはじめとする19世紀末に活躍した心霊主義者たちの思考は、現在ではたんなる非科学として忘却されてしまっています。しかしながら、鉄道、カメラ、蓄音機、飛行機、X線などテクノロジーとメディアが飛躍的な進化をとげた時代における、人間の期待と不安を、彼らの試みは反映していると考えられます
3.生命倫理、医療・看護と倫理
2005年度から、看護学校で「看護と倫理」の講義を担当してきました。看護についても、倫理についても専門外ですが、シュレーバーのような精神病者と社会の関係への関心から、この分野についても少しずつ勉強をしております。
「看護と倫理」の講義では、おもに生命倫理についての最新のトピックを取り上げ、いくつかの事例を挙げて、実際に学生にどのように考えることができるか意見を問いながら、多様な立場を確認するとともに、問題の広がりや難しさを解説するという形式をとっております。
准看護師課程での授業内容は下記のとおりです。
★看護と倫理1年生向け:動物の権利、エンハンスメント、世代間倫理、情報と倫理、自由と自由主義、など医療だけでなく、広く社会問題から人間社会と倫理について考える。★看護と倫理2年生向け:内部告発、インフォームド・コンセント、脳死臓器移植、尊厳死・安楽死、人体実験をめぐる歴史、再生医療、など医療・看護に密接に関連した問題から、生命と倫理を考える。
授業では、毎回学生に問題を出し、一人またはグループでディスカッションをして、最後にコメントカードに自分の意見や話しあったことをまとめるという方法をとっています。さらに毎回授業開始時に、前回の授業で寄せられたコメントをまとめ、内容を振り返るとともに、より深められるように心がけています。
4.初年次教育
2008年度より、京都精華大学にて一年生向け演習科目である、「基礎演習」(現在は初年次演習)の運営に携わってきました。自分の専門とは直接関係はありませんが、初年次教育やFDに関心を持っています。(*もちろんドイツ語教員として、第二外国語と大学における教養教育の関係についても関心があります。)
京都精華大学の初年次演習では、おもに「読む」、「書く」、「話す」、「考える」、「協働する」等の能力を伸ばし、レポートの書き方、プレゼンテーションの仕方などのスタディスキルの習得を目標として取り組んでおります。
毎週の演習の授業に加えて、昨年度および今年度前期は、「エクストラプログラム」として、より高度な内容の特別講義を半期ごとに4回実施しました。テーマは、文学、美術、スポーツ、環境問題など多岐にわたっており、熱意のある学生が多く参加しました。「エクストラプログラム」については、『京都精華大学共通教育センター教育年報』第1号に寄稿した拙稿、および講義レジュメ(その他の講義のページ)をご参照ください。
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