先日出た教科書(川村和宏・竹内拓史・押領司史生・松崎裕人・熊谷哲哉、『携帯&スマホでドイツ語』郁文堂―まだ試行版―)に書いたコラムでもとりあげたけど、ドイツ人の名前は、意外と学生たちに知られていないので、毎年春には名前クイズというのをやっている。
日頃ドイツ文学や映画に親しんでいる我々にとっては、Sabineが女性の名前だというのはすぐわかるけど、高校を出たての大学一年生にとっては男性か女性かわからないというのだ。考えてみればそうだ。彼らの周りには、ドイツ人なんてそうめったにいないし、知ってるドイツ人はせいぜいペーターやハイジやおじいさんくらいだろう。
高校生までに彼らが知るドイツ人の名前、たとえば世界史の教科書にでてくる、ルートヴィヒとかフリードリヒとかヴィルヘルムなんていう名前は、じっさいのところもう100年以上も前の古い名前だ。わりと近現代の偉人の名前、たとえばフランツ(カフカ)、ヘルマン(ヘッセ)、ヴァルター(ベンヤミン)、マルティン(ハイデガー)なんていうのも、やはりもう名付けられることは殆どない名前だ。
ドイツ人の名前にも、日本人の名前と同様、流行り廃りがある。教科書的な、あるいは文学史に載ってるような名前は、ずいぶん昔のはやりである。beliebte-vornamen.deというサイトを見ると、毎年ごとの人気ランキングが掲載されている。2012年に人気の名前は、男子はBenn, Luca, Paul, Lukas, Finn, Jonas, Leon, Luis, Maximilianなどが上位。女子はMia,Emma, Hannah, Lea, Sophia, Anna, Lena, Leonie, Linaなどが上位に入っている。これらの名前からわかるように、今の人気は、呼びやすくてドイツ語っぽくない(国際的に通用しそうな)名前だ。
beliebte-Vornamen.deで驚かされるのは、名前の人気を時代ごとにグラフ化していることだ。たとえば、男子一番人気のBenだったら、1987年に初めて上位200位に入って以来、2000年代まで上昇を続けて、2010年代以降はトップの座にあることが分かる。このグラフで興味深いのは、ドイツ語の名前にはかつて流行った名前がふたたび名付けられるということだ。たとえば2012年上位のMarieという名前は、19世紀末にはトップ10にあったが、その後1950年代から70年代あたりに人気が低迷したものの、90年代なかば以降
はふたたび上位に復帰している。こういう現象は他にもたくさん見られる。
授業で使った名前クイズ |
さらに、よくわからないのが、名前の地域ごとの流行だ。たとえばMarioという名前は、70年代ごろまで人気だったというが、地図を見ると極端にDDR(旧東ドイツ)で多く名付けられていることが分かる。たしかにトーマス・ブルッスィヒのDDR小説『太陽通り』にもマーリオという友人が出てきていた。あの当時の東ドイツに、何か子供をマーリオと名付ける理由があったのだろうか?
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